森の魔女と託宣の誓い -龍の託宣5-
     ◇
「ジークヴァルト様、今日は連れてきてくださってありがとうございました」
「ああ」
「その……ヴァルト様、とても格好よかったですわ」

 帰りの馬車の中、膝の上で頬を染めながらなんとか口にした。恥ずかしいが、溢れる思いをちゃんとジークヴァルトに伝えたい。今一瞬一瞬を大事にしないと、またこの先何があるか分からない。そう思うと、与えられた時間を大切に過ごしていきたかった。

「そうか」

 そう言ってジークヴァルトがやさしく背をさすってくる。ウトウトしてきてしまって、リーゼロッテは眠ったらもったいないと必死に目をこすった。

「こするな、傷がつく」

 やんわりと手を掴まれて、そのまま大きな手に握られる。顔を見上げるも、ジークヴァルトの視線は夕刻迫った流れる景色に向けられていた。

(キス、して欲しいな……)

 あの日神殿の(こご)える森で、ジークヴァルトとたくさんキスをした。うれしくてうれしくて、リーゼロッテからも夢中で何度も口づけをねだった。

 だがあの日以来、ジークヴァルトは一切何もしてこない。膝にのせたり髪を梳いたりするのは相変わらずだが、それ以上のことを求めてくることは一度もなかった。

 今日のヤスミンたちとのやり取りで、ジークヴァルトが自分に対して独占欲を抱いていることはなんとなく分かった。

(それなのにキスのひとつもしてくれないなんて……)

 やっぱり両思いなのは自分の勘違いなのではないだろうか。そんな馬鹿げた不安が頭をもたげてくる。

「どうした? 眠かったら寝てもいいぞ」

 やさしく言われ、ジークヴァルトを穿(うが)って見ている自分が恥ずかしくなった。

(やっぱりヴァルト様は、そういったことに淡白なのかしら……)

 あまりべたべたするのが好きじゃないのかもしれない。勇気を振り絞って自分からキスを迫ってみようか。でも嫌がられたらどうしよう。そんな考えが頭の中をぐるぐると回った。

「ヴァルト様……今度は領地の街並みをゆっくり見てみたいですわ」
「ああ、分かった。だがもう少し暖かくなってからだ」

 ジークヴァルトの声が耳に心地よい。まるで子守唄のようで、リーゼロッテはそのまま眠ってしまった。


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