森の魔女と託宣の誓い -龍の託宣5-
     ◇
「旦那様、リーゼロッテ奥様。ようこそおいでくださいました。おふたりが無事、婚儀を果たされましたこと、心よりお慶び申し上げます」
「エッカルト!? ロミルダも……。どうしてあなたたちがここに……?」

 辺境の砦で出迎えてくれたのは、公爵家家令のエッカルトとその妻のロミルダだった。

「ジークヴァルト様が婚姻を果たされましたのを機に、家令の座はマテアスに正式に譲って参りました。これからはジークフリート様の(もと)で、ロミルダと共にこの砦を守らせていただくこととなりました」
「侍女長もエラに任せてきたんですよ。彼女はしっかり者だから、安心してこちらに来られました」
「さあ、大旦那様と大奥様がお待ちです。どうぞこちらへ」

 慣れた様子でエッカルトが先導していく。この砦はただ石で造られているだけで、質実剛健といった感じだった。貴族の住む建物にしては、煌びやかさの欠片もない。

「随分としっかりした砦なのですね……」
「ここは賊の侵入から国を守るための砦だ。オレが公爵位を退き辺境伯となったら、お前もここに住むことになる」

 言われてみればエマニュエルとの勉強会で、そんなことを習ったような気がする。フーゲンベルク公爵は次の世代に爵位を譲った後、スライドするように辺境伯の地位に就くのが慣習となっているらしい。

 この砦を任された辺境伯には、特別な権限が与えられている。それは国外から敵が攻め入ってきたときに、独自の判断で武力を行使していいというものだ。それは時に王命よりも効力を持ち、臨機応変に戦えるだけの権力が認められていた。

(その分、人格者が選ばれるような地位なのよね……)

 野心ある者に任せると、国を揺るがす謀反(むほん)に発展することもある。龍の保護下にあるのを知りながら、そんな愚かな行いをする者などいないとは思うが、力を得た人間が己を見失ってしまうのはよく聞く話だ。

(ヴァルト様だったらそんな心配はないか)

 そのことだけは自信をもって言い切れる。リーゼロッテは知らず口元に笑みを作った。

「どうした?」
「いえ、なんでもありませんわ」

 そんなことよりも、今から義両親とご対面なのだ。ジークフリートには一度会ったことはあるが、それも幼少の折の話だった。
 義母となったディートリンデには、いまだに会ったことすらない。怒らせると怖い人だとの前情報を、複数人の証言からリーゼロッテは入手していた。挨拶ひとつ済ませることなく籍を入れてしまった嫁の立場として、初対面は細心の注意と敬意を払って臨まなくてはならないだろう。

 直前に知らされたことをいまだ根に持ちながら、リーゼロッテは懸命に挨拶の言葉を頭の中で反芻(はんすう)していた。

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