森の魔女と託宣の誓い -龍の託宣5-
「ああ、今も駄目ね。真実は伝えられそうにないわ」
龍に目隠しをされたのだろう。何かを言いかけて、ディートリンデは苛立つように息を吐いた。
「でもこれだけは知っておいて。マルグリット様はあなたのことを、誰よりも愛していらっしゃったわ」
「はい、ディートリンデ様……ありがとうございます」
実母との思い出はほんの僅かだ。それでもあたたかな記憶はちゃんと胸にあって、リーゼロッテは涙ぐみながら小さく頷いた。
「今のあなたの姿を見たら、マルグリット様もおよろこびになるわ。本当に立派な淑女になったわね」
ディートリンデは慈しむように目を細めた。厳しいがやさしいひとなのだろう。リーゼロッテはそんなふうに思った。
「ロッテンマイヤーさんはやっぱり異形の者が視えていたのですね」
「幼いあなたときたら、びっくりするくらい異形を背負っているんだもの。こっそり様子を見に行ったときは本当に驚いたわ」
大仰に手を広げて、ディートリンデはくすりと笑った。
「眠っている間に憑いた異形を浄化しているようだったけれど、昼の間に何度も転ばされているし、見るに見かねて伯爵に頼んでマナー教師を買って出たのよ」
「そうだったのですね。アルブレヒツベルガーの家名は侯爵家と伺ったのですが……」
「アルブレヒツベルガー侯爵家はわたしの実家よ。そのくらいはきちんと調べれば、すぐに分かったのではなくて? アーデルハイド」
「ごめんなさいっ、ロッテンマイヤーさん!」
条件反射のようにリーゼロッテは背筋を正した。こんなやりとりを、子どものころに何度もしていたように思う。見つめ合って、ふたり同時に吹き出した。
「そういえばわたくし、アーデルハイドでしたわね」
「これもあなたがそう呼べと言ったんじゃない。変わった娘だと思ったけれど、素直で優秀な生徒だったわ」
「わたくし、ロッテンマイヤーさんには本当に感謝しております」
「幼いあなたにしてみれば、厳しすぎたでしょうね。あまり時間がなかったの。許してちょうだい」
「いいえ、わたくしが今、社交界で恥をかかずにいられるのも、ディートリンデ様のおかげです」
「あなたは昔と変わらず本当にいい子ね……」
口元にやわらかな笑みを作ると、ディートリンデはふっと真顔になった。
龍に目隠しをされたのだろう。何かを言いかけて、ディートリンデは苛立つように息を吐いた。
「でもこれだけは知っておいて。マルグリット様はあなたのことを、誰よりも愛していらっしゃったわ」
「はい、ディートリンデ様……ありがとうございます」
実母との思い出はほんの僅かだ。それでもあたたかな記憶はちゃんと胸にあって、リーゼロッテは涙ぐみながら小さく頷いた。
「今のあなたの姿を見たら、マルグリット様もおよろこびになるわ。本当に立派な淑女になったわね」
ディートリンデは慈しむように目を細めた。厳しいがやさしいひとなのだろう。リーゼロッテはそんなふうに思った。
「ロッテンマイヤーさんはやっぱり異形の者が視えていたのですね」
「幼いあなたときたら、びっくりするくらい異形を背負っているんだもの。こっそり様子を見に行ったときは本当に驚いたわ」
大仰に手を広げて、ディートリンデはくすりと笑った。
「眠っている間に憑いた異形を浄化しているようだったけれど、昼の間に何度も転ばされているし、見るに見かねて伯爵に頼んでマナー教師を買って出たのよ」
「そうだったのですね。アルブレヒツベルガーの家名は侯爵家と伺ったのですが……」
「アルブレヒツベルガー侯爵家はわたしの実家よ。そのくらいはきちんと調べれば、すぐに分かったのではなくて? アーデルハイド」
「ごめんなさいっ、ロッテンマイヤーさん!」
条件反射のようにリーゼロッテは背筋を正した。こんなやりとりを、子どものころに何度もしていたように思う。見つめ合って、ふたり同時に吹き出した。
「そういえばわたくし、アーデルハイドでしたわね」
「これもあなたがそう呼べと言ったんじゃない。変わった娘だと思ったけれど、素直で優秀な生徒だったわ」
「わたくし、ロッテンマイヤーさんには本当に感謝しております」
「幼いあなたにしてみれば、厳しすぎたでしょうね。あまり時間がなかったの。許してちょうだい」
「いいえ、わたくしが今、社交界で恥をかかずにいられるのも、ディートリンデ様のおかげです」
「あなたは昔と変わらず本当にいい子ね……」
口元にやわらかな笑みを作ると、ディートリンデはふっと真顔になった。