森の魔女と託宣の誓い -龍の託宣5-
     ◇
 ぷるぷると小鹿のように足を震わせ、リーゼロッテは前へ進もうとした。へたり込みそうになるところを、すかさず抱え上げられる。

「無理はするな。オレが抱く」
「ですが最後にきちんとご挨拶を……」

 あれから数日、辺境の砦に滞在している間ずっと、夫婦の契りを拒むことができなかった。(ほだ)されるまま流されないようにしなくては。そうは思うのに、ちっともうまくいかないリーゼロッテだ。

 横抱きにされたままエントランスへと向かう。相変わらず生温かい目のエッカルト夫妻と、ジークフリートに抱きかかえられたディートリンデが待っていた。
 心なしかディートリンデもやつれているような気がする。目が合って、同じタイミングで遠い目になってしまった。

「おおっと、ヴァルト。言い忘れていたことがある。リンデ、リーゼロッテも悪いが、ちょっとふたりきりで話させてくれ」

 ディートリンデを下に降ろすと、ジークフリートはジークヴァルトに手招きしてくる。しぶしぶリーゼロッテを降ろしてから、ジークヴァルトは父親の元へと向かった。
 ジークヴァルトの肩に手をかけて、ジークフリートは小声で耳打ちしてくる。ジークヴァルトも頭を傾け、その言葉に聞き入った。

「龍の盾としてオレと同じ託宣を受けたお前に、目隠しされずに一度だけ伝えられることがある。いいか、ヴァルト、よく聞くんだぞぉ? 対の託宣を受けた者同士は、肌を合わせると互いの感覚を分かち合う。それはもうお前も体感済みだろう?」
「はい、父上」
「そこで、大事なことだ。調子に乗って続けると、相手を傷つけることになりかねん。女性は繊細で、オレたちのように体力はないんだ。だからリーゼロッテが眠っているときだけは、絶対に手を出すんじゃあない」
「眠っているときだけは……」
「そうだ。どんなに寝顔が可愛いくってもだな、その一線だけは越えたら駄目だ。身もだえるくらいに寝言が可愛くってもだぞ? そこだけは絶対に耐えろ。分かったか? ジークヴァルト」
「肝に銘じます」
「よぉし、いい返事だ。さすがは我が息子!」

 ジークヴァルトの背中をばんと叩いて、はっはっはっとジークフリートは豪快に笑った。

「目隠しされない一度きりの助言をしろと言ったのに……。あれは、(ろく)なことは吹き込まれてないわね」

 吐き捨てるように言ったディートリンデに、引きつった笑みを向けるしかないリーゼロッテだった。

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