森の魔女と託宣の誓い -龍の託宣5-
 湯を浴び、身なりを整えた。次いで託された一通の手紙を手に、あの令嬢の元へと向かう。ヘッダと違い、あの令嬢に恨み言はなかった。彼女もまた宿命を背負わされた、哀れな人間のひとりに過ぎない。
 王女の手紙を手渡すと、令嬢は予想通りに大粒の涙をこぼした。こんなふうに素直に泣けたなら、どんなに楽だったろうか。そんなことを思いながら、アルベルトはバルテン領へと旅立った。

 ひとりきりで馬車に揺られる。正式に貴族籍を賜り、ハインリヒ王の(めい)によりバルテン家に婿養子に入ることになった。これも王女が望んでのことだ。

 元々病弱なヘッダだ。王女という支えを失くして、彼女もそう長くはもたないだろう。先に王女の元へ逝けるヘッダが羨ましいとすら感じる自分がいた。
 ヘッダが逝ったあと、どれほどの時間を過ごすのだろうか。クリスティーナのことだけを思い、ただ終わりの時を待つ。

 窓の外、雪の道に日の光が反射した。新月の夜に生まれたというクリスティーナは、ずっと日陰の王女だった。そんな王女は日の出の時刻がいちばん好きだと言った。早朝の庭で、新しく生まれいずる光に包まれる王女の背中は、いつだってまぶしく美しかった。

 バルテン子爵は実に人のよさそうな人物だった。王命で押し付けられた婿養子にも、いやな顔ひとつ見せずに出迎えられる。どのみちヘッダと子をなすことはない。彼女が旅立ったのちには、ここを去るのが最良の道だ。

 バルテン家に着くなりヘッダの寝室へ通された。足に怪我を負い、伏せる日が多いとのことだった。
 掛けられた天蓋の向こう、寝台の上で彼女は体を起こしているようだ。かける言葉など何もない。王女の最後の言葉を守るため、互いにそばにいる必要があるだけだ。そのことはヘッダもよく分かっているだろう。

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