森の魔女と託宣の誓い -龍の託宣5-
     ◇
 誰もギャラリーのいない広い野外の訓練場で、ふたりは睨むあうように対峙していた。午後もいい時間だ。初夏と言え、そろそろ日が傾き始める頃合いだった。

「本当に丸腰でよろしいのですか?」
「ああ」
「では、剣を選ばなかったこと、すぐにでも後悔させてさしあげます。今ならまだ帯剣しても構いませんよ?」
「無用な心配だ。いくぞ」

 エーミールとてマテアスが武術の達人なのは承知している。だが素手のマテアスに剣技で優ったとして、心から勝利をよろこぶことなどできないだろう。
 それにここ数か月、エーミールも騎士団で随分と揉まれてきた。以前にも増して、体術に自信をつけているエーミールだ。

 素早く(ふところ)に入り込んでくるマテアスの攻撃を、ギリギリのところで受け止める。幾度か組み手を取ってから、相手の力をいなすようにして、互いは再び距離を開けた。

「なかなか腕をお上げになられたようですねぇ」
「その軽口も今すぐ叩けなくしてやる」

 くいと人差し指を動かすと、マテアスはその挑発にあっさり乗ってきた。早く終わらせたいという態度が見え見えだ。

 頬をかすめた拳を避けて、カウンターでマテアスの腹を狙う。無駄のない動きでそれを(かわ)されると、逆に脇腹に一発叩き込まれた。うめき声をあげながら、負けじとマテアスの顔面に拳を炸裂させる。

「マテアス! エラを不幸にしたら絶対に許さない……!」
「そんなこと、あなた様に言われずとも、全力で彼女をしあわせにいたしますよ! それにひとの妻の名を、気安く呼び捨てないでいただけますかっ」

 夕暮れが迫る中、勝負はなかなかつかなかった。互いに一歩も引かない状態で、ふたりは延々と殴り合う。

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