森の魔女と託宣の誓い -龍の託宣5-
     ◇
 踏み台昇降用の箱はすぐに届けられた。
 自転車試作初号機(しょごうき)が届けられたのは、それから二週間が過ぎたころだ。思った以上にごつい物がやってきて、広い部屋で異様な存在感を放っている。零号機(ぜろごうき)はさらに大きすぎて、ここまで運んでこられなかったらしい。

「まずは試作品となりますが……」

 乗ってみてとりあえず漕いでみる。ペダルが軽快に回って、長いスカートでも漕ぎ心地は悪くない。

「走るならこのくらいが楽だけれど、もう少し漕ぎ加減が重い方が運動になるわね」
「なるほど。力のかけ具合を調節できるといいわけですね」

 技術担当のおじさんもやってきて、あれこれと意見を重ねていく。

「ごめんなさい、作れもしないのに言いたい放題で」
「とんでもございません! この革新的なからくりに、みな夢中になって開発しております!」

 少年のようなきらきらした瞳でおじさんが熱く語った。寝る間も惜しんで作ってくれているとのことで、今さらながら事が大きくなっていることを知ったリーゼロッテだ。
 いいところ悪いところを思うまま並べ上げ、初号機は作業場へと引き揚げられた。

 再び踏み台昇降を続ける日々に戻ったリーゼロッテは、汗を流しながらちょっぴり後悔し始めていた。

(何気にこれだけで十分運動になっているような……)

 息を切らし台を昇り降りしながら、そんなことをふと思った。なかなかうまく進まない自転車開発に、今さらもういいわと言えるはずもない。お願いした手前、開発には協力していこうと、汗をぬぐいながら頷いた。

(でも無理そうなら頃合いを見て、大丈夫って言った方がいいかしら……とにかく今はできることを続けなくっちゃ。踏み台昇降に、あとはストレッチをがんばって)

 リーゼロッテの奇妙なストレッチには、今ではエラも慣れたものだ。最近では一緒につき合ってくれて、引きこもりの室内でも効率よく運動できていた。

(エラって何気に引き締まった体してるのよね……)

 最近のエラはうらやましいほどにしなやかな体型だ。マテアスから護身術を習っているとは聞いていた。こうなると自分もやってみたくなる。

(だけどヴァルト様が許してくれるとは思えないわね。エラに頼んでも危ないからってやんわり断られちゃったし)

 踊って戦える令嬢がいてもいいのではないか。そう思ったとき、リーゼロッテははっと顔を上げた。
 過保護なジークヴァルト攻略の糸口を見出した瞬間だった。

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