森の魔女と託宣の誓い -龍の託宣5-
     ◇
「あー忙しい、忙しい」

 わざと大きな音を立て扉を開けると、マテアスは大根役者のように棒読みでそんなことを言った。

 部屋に入ると物陰で隠れるように、ロミルダがじっと息をひそめていた。エラに向かって、しぃっと指を口元に立ててくる。

 そのロミルダに気づきながらも、マテアスは部屋の奥に歩を進める。
 ロミルダに手招きをされて、エラはその横で同じように息をひそめた。これから何かが起こるようだ。そんな予感を前に、エラは言われた通り黙って事の次第を見守った。

 マテアスが振り向くと、ロミルダが言葉を発さず奥の扉を指さした。身振り手振りでマテアスに、必死で何かを伝えている。
 頷くとマテアスはその扉のノブに手をかけた。開かれた部屋は寝室だった。マテアスがその先に進むと、ロミルダに手を引かれてエラもその入り口近くまで移動する。

 扉の横から盗み見ると、寝台で寝ていた誰かが勢いよく身を起こした。
 声を上げそうになって、エラはロミルダに口をふさがれた。何しろマテアスの寝室にいたのは、一糸も身に(まと)わない、素っ裸の女性だったのだ。

「待っていたわ、愛しい人(ダーリン)
「あなた様をここに招き入れた覚えは、微塵(みじん)もございませんがねぇ」

 裸の女性を前に、マテアスは少しも動揺していない声で返した。どちらかというと、うんざりしている様子に見える。

「伯爵家のご令嬢ともあろうお方が、このようなはしたない真似(まね)をなさるなど。いかにご実家の財政が火の車であろうとも、貴族の誇りは忘れて頂きたくありませんねぇ」
「そんなことまで知られているなんて……さすが公爵家の次期家令ね。いいのよ、家のためだもの。使用人の妻にだってなってやるわ。わたくしは何としても、公爵家と縁を結ばないといけないんだから……!」

 どうやらあの女性は、マテアスの立場目当てで近づいてきたらしい。貴族令嬢が捨て身の色仕掛けを決行するなど、よほど切羽(せっぱ)詰まっているのだろう。

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