森の魔女と託宣の誓い -龍の託宣5-
「お嬢様に関わる重大な話……?」
「ええ、そうです」

 普段とまったく違う強引なマテアスに、エラは思わず目を泳がせた。壁伝いに体をずらすと、すかさず両脇に手を突かれてしまった。左右の逃げ場を失って、その場でしゃがみこもうとする。壁に追い詰められた時、下からくぐって脱出するのが定石(じょうせき)だ。

 しかしマテアスは股下を割って、足の間に膝を食い込ませてきた。本格的に閉じ込められて、すぐそこにあるマテアスの顔に恐る恐る視線を向ける。

「エラ、話をするだけです。聞いてもらってよろしいですか?」

 こくこくと頷くと、エラの瞳を見据えたまま、マテアスは事務的に淡々と話しだした。

「まず初めに。リーゼロッテ様と旦那様はいずれ婚姻を果たされます。あなたも知っての通り、今現在、旦那様の理性は相当追い詰められた状態です。そんな中で婚姻の託宣が降りたとしたら、我が(あるじ)(たが)が外れるのは必至(ひっし)。そうなった時リーゼロッテ様は、そのすべてを一身で受け止めねばなりません」

 マテアスの言葉に、エラははっと顔を上げた。本当にリーゼロッテの話をされて、表情が真剣なものとなる。

「その上旦那様とリーゼロッテ様の体格差も問題です。夫婦となられた(あかつき)に、女性の中でも小柄なリーゼロッテ様にとって、体力無尽蔵(むじんぞう)な旦那様の重い愛がご負担になるのは目に見えています。(くすぶ)る欲を持て余しているあの旦那様相手に、夫婦生活の悩みは尽きないことでしょう」

 生々しい想像をして、エラは一気に青ざめた。寝台の上、泣きながら公爵に追い詰められるリーゼロッテが目に浮かぶ。

「リーゼロッテ様は公爵夫人となられるお方。旦那様と子をお作りになることは、避けようのない責務です。それだけではありません。夫婦生活、出産、子育てに至るまで、リーゼロッテ様は今後さまざまなお悩みを胸の内に抱えられることでしょう。その苦悩の数々を、リーゼロッテ様は誰に打ち明けられると思いますか?」
「それはもちろんわたしです。わたしはいつどんな時でも、全力でリーゼロッテ様のお力になると決めています」
「あなたはそうお考えでしょうが、リーゼロッテ様にしてみればどうでしょうか。未婚で子を産み育てたことのないあなたの言葉は、いわば机上(きじょう)空論(くうろん)に過ぎません。悩みが深刻になればなるほど、リーゼロッテ様はあなたよりも、経験豊富な(ロミルダ)やエマニュエル様を頼りになさることでしょう」
「そんな……」

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