森の魔女と託宣の誓い -龍の託宣5-
 思ってもみなかった事を突き付けられて、エラは驚愕で目を見開いた。確かにエラに男性経験はない。侍女ご用達の指南書でひと通り知識は仕入れているが、マテアスの言うように夜の営みや夫婦関係の悩みに関しては、どこまで力になれるかは自信がなかった。

「次にこのマテアス、わたしの話をいたしましょう。わたしは幼少の(おり)から従者として、旦那様がお育ちになるのを誰よりも近くで見守って参りました。それこそおくるみを着せられていた頃から、旦那様が成人し公爵位を継いで今に至るまで、ずっと離れることなく仕え続けております。これが可能だったのは、ひとえにわたしが家令であるエッカルトの息子だったからこそ。それは理解していただけますね?」
「ええ、もちろん」

 突然話が飛んで、エラは戸惑ったまま頷いた。だがマテアスの論調に気圧されて、口を(はさ)む余地も見当たらない。

「そしてわたしはいずれ公爵家の家令となる立場です。それがゆえ、必然的にわたしの子も、リーゼロッテ様の御子のそばで育つことになるでしょう。この意味が分かりますか? わたしの妻となればエラ、あなたもリーゼロッテ様と生まれ来るお子に、親子二代でお仕えできるのですよ」
「親子二代で……」
「加えて言うならば、公爵家の福利厚生はこれ以上になく手厚くなっています。わたしの妻の立場ともなれば、リーゼロッテ様のおそばにいながら子を産み育てることも容易なことです」

 一言一句聞き逃さないよう、マテアスの話に耳を傾ける。リーゼロッテと共に歩む輝く未来が、エラの中で広がった。

「さらに言うと、妻として迎える方には、ロミルダの後を継いで侍女長を務めて頂きたいと考えています。母はディートリンデ奥様に仕え、アデライーデ様とジークヴァルト様の乳母も(つと)めて参りました。同様にわたしの妻となる女性も、リーゼロッテ様のお子の乳母となることでしょう」
「お子の乳母に……」
「そうです。例え使用人であろうと乳母ともなれば、リーゼロッテ様と苦楽を共にする特別な存在となり()ましょう。フーゲンベルク家家令の妻となる女性は、望まざるともその立場に立つことになるのです。その役割を(にな)う人間を、エラ、あなたは他の知らない誰かに(まか)せることなどできますか?」
「そんなのは駄目! お嬢様をいちばん近くでお支えするのは、このわたし以外あり得ません……!」
「でしたらあなたの取るべき道はひとつですよね? 今決断をしなければ近いうちに、わたしの妻の座はあなた以外の誰かの物となるのですよ」
「わたし、マテアスと結婚します。いいえ、マテアス、どうかわたしと結婚してください……!」
「よろこんで!」

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