森の魔女と託宣の誓い -龍の託宣5-
     ◇
 公爵家使用人たち各所への挨拶周りは、結局遅くまでかかってしまった。みな、泣きながら祝いの言葉をくれたが、やはりエラの実感は薄いままだ。
 へとへとになりながら、エラはマテアスの部屋に通される。マテアスと言えば始終ご機嫌で、少しも疲れている様子は見えなかった。

「エラは今夜からこの部屋で過ごしてください。明日には夫婦となるのですから構いませんよね?」
「でも、ここからではお嬢様のお部屋が遠すぎます。しばらくはまだ今まででいさせて欲しいです」
「奥の扉は今は空き部屋ですが、妻用の続き部屋となっています。中にはリーゼロッテ様のお部屋へと続く、隠し通路が備えられているのですよ。明日にでも案内しますが、今まであなたが使っていた部屋よりも、最短で向かえるようになっているので安心してください」
「だけど今夜もお嬢様のお世話をしないとならないし」
「リーゼロッテ様はロミルダに任せてありますから。今日はわたしたちにとって特別な夜です。これ以上無粋(ぶすい)なことは言わないでください」

 マテアスの腕に抱き寄せられる。早朝の鍛錬(たんれん)で今まで何度も組み手を取ったが、こんなにやさしい手つきで包まれるのは初めてのことだ。
 戸惑っているうちに顔を上向かされる。近づく唇に思わず体を引くと、マテアスは少し強引に口づけてきた。

 口づけを深めながら、マテアスがエラのドレスの胡桃(くるみ)(ぼたん)に手をかけた。その気配を察知して、肩を押しながらエラはなんとかその手を引きはがした。

「あの、お願い、まだ待って」
「待ちませんよ。言ったでしょう? 今夜はわたしたちにとって特別な夜だと」
「あ、でもだって」

 再びふさがれた唇に翻弄(ほんろう)されるうちに、いつの間にか髪が(ほど)かれていく。いくつも口づけが落とされる中、強張(こわば)る体をどうすることもできなくて、エラは必死にマテアスの動きを止めにかかった。

 しかし体術の師匠だけあって、マテアスは最小限の力でエラの動きを封じてくる。どうあっても抜け出すことができなくて、エラはただ体を震わせた。

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