森の魔女と託宣の誓い -龍の託宣5-
「エラ、ひとつだけ約束してくださいますか? わたしは公爵家の家令として、家庭よりも優先しなければならないことが今後たくさん出てきます。リーゼロッテ様にお仕えする身として、それはあなたも同じことでしょう」

 マテアスの言葉に頷いた。(あるじ)の大事とあらば、家族ですら切り捨てなければならないこともある。

「ですが、だからと言って、すべてをないがしろにはして欲しくありません。夫婦となるからには、これから先ずっと、共にしあわせな家庭を築く努力を(おこた)らないと、そうわたしと約束して欲しいのです」
「はい、マテアス……わたし、あなたと約束します」
「ありがとう、エラ。誰よりも愛していますよ」

 マテアスの顔が近づいて、エラは静かに瞳を閉じた。触れるだけの口づけを落とすと、マテアスはすぐに立ち上がる。

「もう遅い時間です。エラはこのままここで休んでください」
「マテアスはどこへ行くんですか?」
「わたしは執務室でもどこででも寝られます。一晩中あなたといて、何もしないでいる自信はありませんから」

 困ったような笑顔を向けると、マテアスはそのまま部屋を出ていこうとした。

「あの、マテアス……!」

 思わず腕を掴んで引きとめる。振り返ったマテアスの胸の中に、勇気を出して飛び込んだ。

「今夜、わたしを……マテアスの妻にしてください」

 もう心を決めた。いずれ迎える初夜なのだ。マテアスの言うように、子を作るなら早い方がいい。

「本当にいいんですか? 今度こそ絶対に止められませんよ?」

 息を飲んだあと、マテアスは真剣に聞き返してきた。頷いて、抱きつく手に力を入れる。気づくとあっという間に、寝台の上に逆戻りしていた。

 与えられる口づけを受け入れて、エラはマテアスに身をゆだねた。

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