森の魔女と託宣の誓い -龍の託宣5-
 ふいと顔をそらしたジークヴァルトを見上げ、リーゼロッテはしゅんとうなだれた。

「ごめんなさい、わたくしがヴァルト様の邪魔をしているから……」
「とんでもございません! リーゼロッテ様は何も悪くはございませんよ」
「だったらマテアスは何を怒っているの? ヴァルト様はきちんとお仕事をなさっていたわ」
「あ、いえ、そうではなく公爵家の呪いが」
「マテアス」

 ジークヴァルトに睨みつけられ、マテアスはもの言いたげなまま口をつぐんだ。

「呪いが? 呪いは異形たちが起こしているのよね。ヴァルト様のせいではないでしょう?」
「それはそうなのですが、発動する原因を作っているのは……」
「マテアス」

 再び睨みつけられて、マテアスは困ったように眉を下げた。

「いつまでも隠していてもしょうがないでしょうに……。仕方ありませんね。旦那様はリーゼロッテ様を部屋にお連れしたら、執務室に戻ってきてくださいよ」

 書類を抱えて出ていくマテアスを見送って、膝から降りようとした。しかし強くホールドしたまま、ジークヴァルトはリーゼロッテを離そうとしない。

「ジークヴァルト様? もう戻らないとですわ」
「ああ、分かっている」

 言葉とは裏腹に手に力を()められる。戸惑っているうちに膝裏をすくい上げられ、そのまま抱き上げられた。

「わたくし自分で歩きますわ」
「いや駄目だ。来るときも転んだだろう」
「あれは毛足の長い絨毯(じゅうたん)に足を取られてしまって……」

 ひと月以上、狭い部屋に閉じ込められて、随分と筋力が衰えてしまった。東宮で鍛え上げた体が、今では見る影もない。

「だったらなお更だろう。いい。お前はこれから一切歩かなくていい」
「ですが少しは運動しないと本当に歩けなくなりますわ」
「オレが運ぶ。問題ない」
「そんな……!」

 呆気にとられたまま廊下を運ばれる。来るときもこうして部屋から運ばれてきた。転んでしまった手前、行きはおとなしく受け入れたが、このままいくと本当に歩かせてもらえなくなりそうだ。

 この腕の中にようやく戻ってこられたのだ。こうしてくっついていられるのは、リーゼロッテもものすごくうれしい。だが過保護ぶりに拍車がかかっていて、未来は要介護まっしぐらだ。

「部屋からは出るなよ」

 リーゼロッテの部屋の中、アルフレートの隣のソファに降ろされる。名残(なごり)惜しそうに髪をひと(ふさ)さらって、ジークヴァルトは指からこぼしていった。

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