森の魔女と託宣の誓い -龍の託宣5-
     ◇
 数か月ぶりの出仕は書類仕事から始まった。外での公務があるからと、ハインリヒと顔を合わせることもなかった。その事にどこかほっとしている自分がいる。

 リーゼロッテが神事から消えた日の出来事が、未だ胸にわだかまったままだ。あの日のハインリヒの行いは、今でも到底許せるものではない。だが彼らしくない言動に、信じられないという思いも大きく占めた。

(王位を継いでからハインリヒは何かが変わった……)

 この国を()べる王はみな、(かんむり)と共に青龍の御霊をその身に宿す。そんなことを年老いた貴族は何かにつけて口にする。あれがそうだと言うのなら、ジークヴァルトも信じざるを得なくなってくる。

 王家に忠誠を誓う貴族として、公爵領を任された当主として、そして何よりも、リーゼロッテの伴侶に選ばれた身として、この(くすぶ)る怒りは見て見ぬふりを貫かなくてはならない。

(大丈夫だ、彼女は彼女のまま戻ってきてくれた)

 傷を負いながらも、その心は変わらず無垢なままだ。以前にも増して(まばゆ)くて、誰の目も引きつけてしまうリーゼロッテが、今は歯がゆくて仕方がなかった。自分以外には触れさせたくない。そんな欲ばかりが際限なく膨れ上がっていく。

 手に届かないうちは存在に焦がれ、いざ腕の中に戻ってくれば、もっと深くを求めてしまう。果てのない欲望は、いつまでも(かわ)きを訴えた。

(駄目だ、彼女の無事をよろこぶべきだ。今はそれで満足しなければ)

 心を無にして政務を続ける。書類の不備を確認し、王印を押すのみとなった書類を選別していく。今さらハインリヒを責め立てても事は何も変わらない。むしろ状況をややこしくするだけだと、己を無理やり納得させた。

「フーゲンベルク公爵様、ハインリヒ王がお呼びでございます。今すぐ来るようにとの仰せです」

 声掛けをしてきた城仕えの者を、思わず眼光鋭く睨んでしまう。委縮する脇を通り過ぎ、ジークヴァルトは玉座の間へと向かった。

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