森の魔女と託宣の誓い -龍の託宣5-
     ◇
「お召しにより参上致しました」
「来たか、フーゲンベルク公爵。久しいな」

 久しいも何も、謹慎を命じたのはハインリヒだ。無言のままジークヴァルトは、さらに深い礼を取る。周囲には近衛騎士をはじめ、宰相と幾人かの神官がいた。王に忠誠を誓う貴族として、形だけでも敬意を示さなくてはならない。決して怒りを(おもて)に出さぬよう、ジークヴァルトは無表情を貫いた。

「今日呼んだのは他でもない。(さき)の夢見の巫女が降ろした神託の件だ」

 前の夢見の巫女とはクリスティーナ王女のことだ。その彼女が亡くなってから、二か月以上は経過する。次の巫女は未だに見つかっておらず、二度とリーゼロッテには関わらせまいと、ジークヴァルトは身構えた。

「以前にも伝えた通り、王女が残した神託は、そなたに向けて降ろされたものだ。神殿が出立(しゅったつ)の吉日を占った。断鎖を背負う青き者として、公爵にはシネヴァの森に向かってもらう。これは龍の意思であり王命だ。快く引き受けてくれるな?」
(つつし)んで拝命致します」

 ハインリヒの顔を見ないまま、ジークヴァルトは深く(こうべ)を垂れた。龍の言葉である神託は、託宣と同様この国では絶対だ。厄介事(やっかいごと)だと思っても、突っ張ねることは不可能だった。

(だがリーゼロッテだけは連れていく)

 神託だろうと何だろうと、彼女から離れるなどできはしない。そこは何としても押し切る覚悟を決めていた。

「詳細の日付と道中の経路は、神官長、そなたから伝えてくれ」
「承知いたしました。フーゲンベルク公爵様、まずはリーゼロッテ様が無事にお手元にお戻りになったこと、心からお(よろこ)び申し上げます。あの場ではすべては青龍の意思とお伝えしましたが、公爵様の心中はさぞ穏やかではなかったことでしょう」

 神官長の言葉に、危うく(うな)り声をあげるところだった。リーゼロッテが(さら)われた事に関して、神殿は知らぬ存ぜぬの姿勢を保っている。

 こちらとしても不法侵入をして奪還したとは、大っぴらに言う訳にもいかなかった。神隠しに合ったリーゼロッテが、ある日突然戻ってきたというスタンスなので、神殿に問い詰めることはできないでいるのが現状だ。

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