森の魔女と託宣の誓い -龍の託宣5-
     ◇
「お義母様とこんなふうにお話できるのも久しぶりですわね」
「そうね、リーゼが小さい頃から何度もこうして過ごしたものね」

 リーゼロッテが初めてダーミッシュ家にやってきた日のこと。何気ない日常、笑い合った日々、悲しかった出来事、忘れられない大事件。思い出話に花が咲き、ふたりでティータイムを楽しんだ。
 ひとしきり話が弾んだ後、クリスタはリーゼロッテの短くなった髪に手を伸ばした。

「リーゼ、本当はいろいろと大変だったのでしょう? 王城での出来事は話せないことも多いのだろうけど……どうしてもつらくて耐えられなくなったら、いつでも頼っていいのよ」
「はい、ありがとうございます、クリスタお義母様」
「それでこちらでの生活はどう? ジークヴァルト様はやさしくしてくださっている?」
「とってもよくしていただいております。わたくしジークヴァルト様の婚約者に選ばれて、本当に……本当にしあわせですわ」
「そう、ならよかったわ。いつの間にかこんなに大きくなって……リーゼロッテはダーミッシュ家の誇りよ」
「お義母様……」

 見つめあってふたりで涙ぐんだ。今までもこうしてよろこびもかなしみも、みんなで分かち合ってきた。血のつながりはなくとも、自分たちには重ねてきた確かな時間がある。それは消えることのない家族の(あかし)だ。

「最後にわたくしから、今回の旅の心構えを伝えておくわ。大事なことだからよく聞くのよ?」

 頷いて緊張気味に居住まいを正したリーゼロッテの頬を、クリスタはやさしく撫でていく。

「すべてジークヴァルト様にお任せしなさい。どんなことがあってもそれで大丈夫だから。リーゼロッテは安心して行ってくるといいわ」
「はい、お義母さま。ヴァルト様の言いつけをきちんと守って、ご迷惑にならないよう行って参ります」

 微笑んでクリスタはリーゼロッテを抱きしめた。

「あまり長話をして疲れさせてもいけないわね。明日もまた話せるから、今日はこのくらいにしておきましょう」

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