森の魔女と託宣の誓い -龍の託宣5-
     ◇
 王城から派遣された護衛騎士が(いかめ)しい顔で警備する中、フーゲンベルク家の馬車留めには屋敷中の使用人が整然と立ち並んでいた。

「では旦那様、リーゼロッテ様、屋敷の者一同でお帰りを心待ちにしております」
「ああ」
「ありがとうマテアス。気をつけて行ってくるわ」

 みなに見送られながら豪華な馬車に乗り込もうとする。

「お嬢様……!」

 不安げに瞳を揺らすエラがリーゼロッテの手を取った。

「その……いざというときは、公爵様にすべてお任せすれば、本当にそれで大丈夫ですから」
「ええ、分かっているわ。エラは心配せず帰りを待っていて」
「はい、お嬢様」

 安心させるようにエラに微笑むと、抱き上げられてリーゼロッテは馬車に乗せられる。ジークヴァルトの膝の上、窓からみなに手を振った。
 ゆるやかに馬車は走り出し、小鬼たちが瞳を潤ませながら途中まで追いかけてくる。一斉に頭を下げた使用人たちの姿は、あっという間に見えなくなった。

 しばらく坂を下り、領地の大通りを進む。レースのカーテン越しに外を眺めていたリーゼロッテの耳元で、紙の乾いた音がかさりと鳴った。自分を膝に乗せながら、ジークヴァルトはいつものように書類の束を片づけている。

「こんな時までお仕事ですか? せっかくの旅ですのに……ヴァルト様は少し働きすぎですわ」
「問題ない。お前はゆっくりたのしむといい」

 そう言って、窓の外を見やすいように抱え直された。

 この馬車は王家が用意したものだ。普段使っている公爵家の馬車よりもひと回り以上大きく、そして設備も豪華だった。
 リーゼロッテが足を伸ばして寝そべれそうな座椅子。その上にはふかふかのクッションがいくつも置かれている。備えつけのテーブルはアンティーク調で、ふたり分の紅茶と菓子くらいなら楽勝で並べられそうだ。
 そんな広々とした馬車の中、ジークヴァルトと窓際のすみっこに寄っている。

「あの、ヴァルト様」
「なんだ?」
「旅も長いことですし、お膝抱っこはなさらない方が」
「なぜだ?」
「ヴァルト様の足が痺れてしまわないか心配ですわ」

 この馬車は乗り心地もいい。多少の揺れくらいでは、リーゼロッテが怪我をすることはないはずだ。

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