森の魔女と託宣の誓い -龍の託宣5-
「ヴルティエ河ってこんなに大きかったのですね」
「ああ」

 王都の街中で橋を渡ることはあったが、こう目の当たりにすると感嘆のため息が漏れて出る。
 川岸に視線をやると、見送りのギャラリーがごった返していた。平民の着る服も異国風だ。賑わう雑踏の雰囲気も熱気も飛び交う会話も、リーゼロッテの日常にないものばかりで埋め尽くされている。

(異世界情緒にあふれてる……って言うのもおかしな話かしら)

 見るものすべてが目新しい。この国に転生したものの、今まであまりにも狭い世界にいたのだと改めて思った。

「もっと先端には行けないのですか?」

 安全のためか、船首の手前には鎖が張られている。

(先の先まで行ければアレができるのに……)

 後ろからジークヴァルトに抱きしめられ、向かい風を受け両手を広げる。脳内でえんだぁあ~とBGMが流れていたリーゼロッテの思考を(さえぎ)るように、ジークヴァルトの手がぐっと力を()めてきた。

「駄目だ、危険だ」
「分かりましたわ。わがままは申しません」

 さすがにタイ〇ニックごっこがしたいとは言えるはずもない。素直に頷いて、来た方向を引き返した。

 ゆっくりと渡る船内で、行く先行く先に船員と(おぼ)しき男たちが現れる。はじめは気のせいかと思ったが、気づくと不自然と思えるほどの船員たちが周囲を囲っていた。
 近づいてくるわけではないが、見ていない方向から熱視線を感じた。そちらへ顔を向けるとさっと視線をそらされる。四方がそんな感じなため、リーゼロッテは困惑気味に首をかしげた。

「あの方たちは何か御用なのでしょうか……?」

 その割に話しかけてくるでもない。こちらの移動と共に船員たちも移動する。遠巻きにリーゼロッテを見やっては、こそこそと何かを言い合っているだけだ。

「やはり駄目だ」

 唐突に言って、ジークヴァルトがいきなり抱き上げてきた。急なことに首筋にしがみつく。

「でもまだ船は動いては……」
「駄目だ、危険だ、いいから黙ってオレに抱かれていろ」

 耳元で言われ頬が(しゅ)に染まる。

(だから、言い方ァ……!)

 恥ずかしさをごまかすために、その胸に顔をうずめるしかないリーゼロッテだった。

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