森の魔女と託宣の誓い -龍の託宣5-
 顔を上げた先、揺れる金の瞳と見つめ合う。泣きはらした顔を見て、リーゼロッテも次第に涙目になった。

「いいえ……わたくし、ちゃんと覚えております。イグナーツ父様とマルグリット母様と、三人で過ごしたしあわせな日を」
「ロッテ……」

 涙の防波堤が、ふたり同時に決壊(けっかい)する。互いを抱きしめて、合唱するようにわんわんと泣き合った。

 ひとしきり涙をこぼすと、すんと鼻をすすった。赤くなった鼻を見て、どちらともなく笑みがこぼれる。

「ロッテはいい子に育ったな……ダーミッシュ伯爵はとてもできた人だろう?」
「はい、ダーミッシュの義父は、わたくしを本当の家族のように受け入れてくれました」
「養子先を選んだのはディートリヒ王だったが、伯爵には本当に感謝だな」

 やさしげに細められた瞳は、記憶に残る父そのものだった。年齢は経ていても、母を後ろから抱きしめる思い出の中のイグナーツは、今とまったく同じ瞳をしていた。

 その顔を見て、ふと疑問が湧いてくる。先ほどイグナーツは言った。()()(マルグリット)しか選べない、と。

「マルグ……」

 母は生きているのかと、そう問おうとしてリーゼロッテは口をつぐんだ。龍に目隠しをされたのだ。それが分かると、他に言いようを何とか探した。

「昨年、父様は山に行ってらしたのですか?」

 ハインリヒの言葉を思い出す。実父が健在だと分かった時、イグナーツはどこか山奥に行っていると言っていた。

「去年だけじゃない。オレはマルグリットを探しに、毎年ベトゥ・ミーレに登っている。雪解けが遅れたせいで今年は遅くなっちまったが、今から山に向かうところだ」
「ベトゥ・ミーレ山に……?」
「ああ、あの山は龍の霊峰(れいほう)と呼ばれているが、確かにマルグリットの気を感じるんだ。山頂に行けば行くほど強い気配を……」

 (にら)むような視線を、イグナーツは窓の外に向けた。大事な何かを()がれる、意志を持った強い瞳だ。

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