森の魔女と託宣の誓い -龍の託宣5-
「お前、まだロッテに手を出してねぇだろう?」
「……婚姻はまだ果たされておりませんので」
「マジでか。お前、託宣の(つがい)を前によく我慢できんな。正気の沙汰じゃねぇ。アレか? うちに来た日にロッテに嫌われて、それで怖気(おじけ)づいてるってわけか?」

 とても父親の口から出た台詞とは思えず、無表情のままジークヴァルトの眉根が寄せられた。

「まあこのオレが言うのも何だけどよ、ロッテを大事にしてくれてありがとうな。礼に父親としてひとこと言わせてくれ」

 急に真面目顔になって、イグナーツはさらに声のトーンを落とした。

「これからシネヴァの森に婚姻の神事に向かうんだろう? いいか、解禁になったからってがっつくんじゃねぇぞ。落ち着いてコトを進めろ。焦らず、騒がず、そしてロッテの嫌がることは絶対にするな」
「焦らず、騒がず、嫌がることはしない……」
「そうだ、冷静に反応を見て、ロッテのよろこぶことにだけ集中しろ」
「リーゼロッテのよろこぶことにだけ……」
「あと緊張を(まぎ)らわすために酒は飲みすぎるな。いざというとき()たなくなんぞ」
()……」

 言いかけて口をつぐんだジークヴァルトに、イグナーツはどや顔で頷いた。

「以上が先輩(オレ)からのアドバイスだ」

 父としての忠告ではなかったのか。そう思ったものの、ジークヴァルトは神妙な顔で頷き返した。

「あのカイ様……」

 こそこそと隅で言い合っているふたりを横目に、リーゼロッテは同じようにその様子を眺めていたカイに遠慮がちに声をかけた。

「ん? 何?」
「あの……ベッティは、今、どうしているのですか……?」

 (とら)われた神殿から救い出されたあの日、ベッティはカイによって助け出された。マテアスにはそう聞かされたが、彼女が大怪我を負ったことをリーゼロッテはあとから知らされた。

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