森の魔女と託宣の誓い -龍の託宣5-
     ◇
 昼食後の腹ごなしに、リーゼロッテは再び庭へと散策に出た。今度はジークヴァルトとふたりきりだ。地面を踏みしめるのが久しぶりすぎて、足取りも軽くなるというものだ。
 風に揺れる木々のざわめきが心地よい。緑のにおいを胸いっぱいに吸い込んだ。

「わたくし、新緑の季節がいちばん好きかもですわ」
「そうか」
「でも雪どけの季節も春が待ち遠しくて好きです」
「そうか」
「春の日差しはやわらかくて、お昼寝にはもってこいですわね」
「そうだな」
「真夏は綺麗な虹がよく出ますし、秋は秋で紅葉が美しいから、どちらも捨てがたいですわ」
「そうか」
「寒い冬だったら暖炉の前で過ごす時間が好きですわ」
「そうか」

 そっけない言葉しか返してこないジークヴァルトを不満げに振り返る。口下手だと分かっているが、もっとこう会話が弾まないものだろうか。

(確かこういうときは、イエス、ノーで答えられない質問をするんだったわ)

 よく言われている会話を続けるコツを思い出す。

「ヴァルト様はどの季節がお好きですか?」
「……夏だな」
「夏? 理由はありますの?」
「お前が生まれた季節だからだ」

 素で返されて、不意打ちを食らってしまった。不覚にも体から緑の力が溢れ出す。

「だ、大丈夫です、すぐに落ち着きますから!」

 このままではまた抱き上げられてしまう。心配性のジークヴァルトを前に、ふーと息を吐いて力の流れに集中する。今までのぽんこつぶりが嘘のように、すぐに流れは整った。

「さ、参りましょう」

 そそくさと先へ歩を進める。馬車の旅が始まると、またろくに歩けなくなる。今のうちに少しでも歩きだめをしておかなくては。

< 94 / 167 >

この作品をシェア

pagetop