野いちご源氏物語 四二 匂兵部卿(におうひょうぶきょう)
(かおる)(きみ)はすでにこの世をつまらないものと(さと)っていらっしゃる。
<結婚は出家(しゅっけ)(さまた)げになる。なるべく早くこの世を捨てたいのだから、面倒事にはかかわらずにおこう>
姫君(ひめぎみ)婿(むこ)にとさりげなく申し込む貴族たちにも知らん顔をなさっている。
ましてや、親の許可がないような女性にお心をお向けになることはない。
まだ本当の恋に落ちたことがないから()ましておられるのでしょうね。

十九歳におなりになった年には、さらにご出世なさった。
(みかど)明石(あかし)中宮(ちゅうぐう)様に大切にされて、たくさんの貴族のなかで堂々とした地位にお()きになった。
それでも調子に乗ったお振舞いなどはなさらない。
ご自分の出生(しゅっせい)の秘密がお心に引っかかって、若者らしい恋愛遊びには無関心なの。
落ち着いて大人びたお人柄(ひとがら)だと世間に思われていらっしゃる。

匂宮(におうのみや)様が恋心を(つの)らせておいでの内親王(ないしんのう)様は、上皇(じょうこう)様のお住まいでお暮らしになっている。
そこには薫の君のお部屋も用意されているから、自然と内親王様のご様子が伝わってくる。
とても奥ゆかしくご立派なお人柄のようで、少しはお心が動く。
でも、こちらから交流をお願いすることは遠慮していらっしゃる。

<上皇様はあらゆることで私を親しくお(あつか)いくださるが、この内親王様からだけは遠ざけるようになさる。そもそも内親王は神聖(しんせい)なものであるし、上皇様にとってはたったおひとりのお子なのだから、警戒(けいかい)なさるのも当然だろう。そういう方に手を出すのは面倒だ。うっかり本気になってしまったら、私にも内親王様にも困ったことになる>
わざわざ近づいてはいけないとご自分に言い聞かせなさる。
< 14 / 18 >

この作品をシェア

pagetop