野いちご源氏物語 四二 匂兵部卿(におうひょうぶきょう)
では(かおる)(きみ)は完全に女性と(えん)を切ってお暮らしかというと、そうでもないの。
ちょっとしたお手紙をお送りになってしまえば簡単に女性はなびくから、恋人とも言えないような関係の女君(おんなぎみ)があちこちにいる。
期待を持たせてはいけないと結婚の話などはお出しにならない。
それなのにたまにわずかなご愛情をお見せになるから、かえって女君にはつらい。

<家でお待ちしていても薫の君はめったにお越しくださらない。切ない思いばかりが増していく。いっそお母宮(ははみや)のお屋敷に奉公(ほうこう)に上がれば、しょっちゅうお姿を拝見できるのでは>
と考えて、女房(にょうぼう)(づと)めを始める人までいる。
女房のなかのひとりとして冷淡(れいたん)(あつか)われるのもつらいような気がするけれど、<関係が切れてしまうよりは>と思うのでしょうね。
働くことなどふさわしくない身分の姫まで、奇跡を信じてそんなことをする。
思わず夢を見てしまうような優しく美しい若者なのだもの、仕方がないのかもしれないわね。
< 15 / 18 >

この作品をシェア

pagetop