贅沢悪女と断罪された私がドレスを脱ぎ捨てた結果。
ふと彼を見ると、完全に彼の時間が止まっているように見える。馬車も止まっていて、私は扉を開けて外に出た。立ち上がった拍子にするりとドレスが落ちる感覚があり、私は慌てて着崩れたドレスを着直した。着替えもないのに、馬車の中でドレスを脱いで私はどうするつもりだったのだろう。

周りを見渡すと騎士たちや馬の時間も止まっている。

空を行き交う鳥まで動きが止まっていた。
風も止まっているのか、葉っぱが宙に浮いて動かない。

「動いているのは私だけ?」
私の呟きに、最期の日に聞いた忘れられない声がした。

「今、この世界で動いているのは、貴方と私二人だけだ。シェリル・アベラルド!」

記憶にあるよりも幼い彼は今十六歳だろうか。
アルベルト王国を一年後に滅ぼした革命の英雄。
皆を導く強い太陽のような瞳。

「ユリシス!」

私の呼び掛けに、彼は一瞬不敵に笑うと崩れ落ちるように膝をついた。
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