私は‪✕‬‪✕‬を知らないⅡ
それから数分してイヤホンから男の人の声が聞こえる。


『お待たせ!待たせてごめんね』


『私が早く来すぎちゃったので薺(なずな)さんは気にしないでください』


な、"なずな"さん〜!?


ましろんって基本あいつとか!あんたとか!苗字でしか呼ばないのに・・・!


琉生だって俺と被るから呼んでるって言ってたのに!


ましろんの前に現れたスーツ姿の男がどんな面をしているのか拝みたくて双眼鏡を必死に覗き込む。


暗めの茶髪に茶色い瞳をした20代前半の薺と呼ばれたその男。顔立ちやスタイルは絵に描いたように良くて、紳士的な雰囲気を感じさせるような人だった。


年上・・・。


高校生に手を出す奴はどうなの?とも思うけど年上相手でもましろんは引けを取らないから笑いながら談笑する二人は絵になっていると思う。


何より驚いたのはましろんが屈託ない笑顔をそいつに向けてること。





ゆうちゃんを除いて笑顔を向けられた事なんて俺達でもほとんどないのに・・・。


ズキズキと胸の痛みが増していく。


『それじゃ行こうか』


『はい、あ!今日は日差し強いのでよかったら入ってください』


『はは、ありがとうね』


「なっ!」


相合傘まで!?


移動する姿を見て慌てて会計を済ませて店を出る。


薺ってやつも当たり前かのように受け入れてるしさぁ!


込み上げてくる感情に蓋をしながら一定の距離を保って追いかける。
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