私は‪✕‬‪✕‬を知らないⅡ
その目にはまだ慣れなくて。慌てて被せられたかーさんの言葉を確認するように置いてある電波時計に目をやる。時間は17時を数秒過ぎたところ。


だから、大丈夫なはずなのに。


「17時には家に居てって言ってるでしょ!?なんで言う事聞けないのッ!」


そう言って転がっていた恐竜のぬいぐるみを投げつけられる。


「ごめんなさい。気をつけ、ます」


とーさんに買って貰ったのぬいぐるみでよかった。そんな事を思いながら謝罪の言葉を並べる。


かーさんが怒るなら悪いのはおれだ。


だから謝らないと。いい子にしてないと。


いつもはもっと何か言われるはずなのにこの日のかーさんはすぐにまた同じ場所に戻ってぶつぶつと何かを呟く。


「あの人はいつ帰ってくるの・・・。あんな女の所に行くなんて・・・。どうやったら戻ってきてくれるの・・・」


この頃のおれはその言葉の意味はよく理解できていなかった。


よかったこれ以上怒られなくて。何時間も怒られた後はいつもなんかよく分からないけど息がしづらくなるから。


かーさんの事は好きだけどそれだけは嫌だった。





家庭崩壊。


大きくなった時に知ったこの言葉があの頃の様子を表すのにぴったりだと思う。
< 42 / 119 >

この作品をシェア

pagetop