私は‪✕‬‪✕‬を知らないⅡ
「自分の事が許せなくて、必死だった」


だからって綾波を傷付けていい理由にはならないのに。


初めて会った日の事を思い出す。


怒鳴りつけて、手を出して、周りに八つ当たりしてちゃんと見ようともしないなんて。


かーさんと何が違うって言うんだ?


「・・・そんな事があったら私だってそうなる。誰もアンタを責めることは出来ないわ。瑠璃川自身だって」


なんでだろ、祭りの音で騒がしいはずなのに綾波の言葉はすんなりと入ってくる。


「俺自身も・・・」


薺さんから話を聞いて似たような過去を持っているかもしれないと感じたから?


いいや、話を聞いてなくても俺は綾波には打ち明けていたと思う。


「十分前に進めてると思ってるけど。一度裏切られたこともあったうえでよ?十分アンタは強い。ほら、こんな私相手に話せてもらえるくれるくらいにはさ」


心も、体も、過去に捕らわれたままじゃない。


そう続ける綾波に胸の苦しさは和らいでいく。


だけど、


「・・・こんな相手なんて言うなよ」


「・・・気になるのそこ?」


「当たり前だろ。お前はもう友達で、仲間なんだ」


「・・・」


「・・・歓迎会したの忘れたのかよ」


「忘れてないわよ」


ならなんか言ってくれよ。


「優里もそうだけどアンタ達二人は素直過ぎて怖いわ」


横から綾波の声が聞こえるけどどうしよ。


あの日と同じ、困ったように笑うななんて思いながら動き疲れたのか話疲れたのか、分からないけど眠気が襲う。


大きな欠伸が零れて、そっと瞼を閉じた。
< 53 / 119 >

この作品をシェア

pagetop