私は‪✕‬‪✕‬を知らないⅡ
変だな、そんなに叫んでないはずだから周りの大きな声に消されても可笑しくないのに。


貴女の声はいつだって鮮明に聞こえるの。


「来い!」


あたしに向かって腕を伸ばすましろちゃんがそこには居た。


練習よりも近いのはパスの範囲ギリギリまであたしに寄ってるからだ。


たった二文字。


それだけであたしの不安はどこかへ消えて行くの。





『優里はまっすぐ私の所に来る事だけを考えてればいいから』


さっきの言葉を思い出してまた腕を振る。


何も考えられなくて練習した時の事なんて思い出せない。





がむしゃらに走って、


「----っ!」


ましろちゃんの手に、バトンを渡す。





お願い、という文字は言葉に出来なかったけど確かに頷いてくれた。


答えるように綺麗な笑みを浮かべて、前へ向き直す瞬間、その赤い目を輝かせて走り出したましろちゃんの姿をあたしは忘れないと思う。


存在全てで安心感を与えてくれて、なんとかしてくれるんだって思わせてくれる貴女を。


「春野!大丈夫?」


「大丈夫だよ、もう痛くないの」


心配してくれる委員長には申し訳ないけど、それよりもましろちゃんを見たい。
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