俺様CEOは激愛の手を緩めない~人生どん底のはずが執着愛で囲い娶られました~
大きくて硬めの手のひらの感触に思わず鼓動が跳ねたが、下心がないのはわかっている。

うまく人波を縫って向こう側へ渡ってくれてから、すぐに手を離してくれた。

(意外と優しい)

エレベーターも混んでいてひとつ見送ってから乗り込み、やっと二十階に着いた。このビルの最上階である。

大手チェーンの居酒屋が入っていた一階に比べるとかなり静かだが、人の話し声はする。

廊下を奥へと進み、シンプルな黒いドアの前で彼が足を止めた。

フランス語と思われるスペルの店名が銀のプレートに書かれているが、看板と呼ぶには小さくて飲食店なのかオフィスなのかわかりにくい店構えだ。

黒見がドアの取っ手に手を伸ばしたが、触れる前に中から開けられ客が出てきた。

梨乃と同年代に見えるカップルで、ふたりの後ろに高級感漂うホテルのロビーのような内装が見えた。きっとその先がテーブルのあるホールなのだろう。

(創作料理と言ってたけど、フランス料理系?)

ドレスコードがあるのではないかと服装を気にした。

ベージュのコートの下はパンツタイプのオフィススーツで、アクセサリーもつけていない。

(私、入れる? うーん、でもダメなら連れてこないか)

壁際によけて出てきたカップルとすれ違うと、彼氏に文句を言う女性の声が聞こえた。

「だから言ったじゃない。予約しないと無理だって」

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