幼なじみは狐の子。〜幼なじみと転校生の溺愛〜



 改札から出て来た恋は、宗介を見つけると、家へ帰ってきた百倍速で博物館にまた戻ってしまいたくなった。

 宗介がいつもとは違うおっかない顔をしていたので、これはただでは済まない、と恋は直感した。

 花壇の日時計の前、スタスタ近付いて来た宗介は、いきなり、パチーンと恋の頬を打った。


 恋は痛かったしびっくりした。


 宗介が何も言わなかったので、恋は転びそうになりながら美風の方を見た。


「樋山くん」


 恋は小さく呟いた。


 美風は腰掛けていた花壇から恋と宗介を眺めていたが、やがて立ち上がると、恋の方へ歩いてきた。

 何か言われるなと思った時に冷たい表情をした美風がパチンと恋の逆の頬を打ったので、恋はショックを受けた。


「ごめんなさいは?」


 美風が聞いた。

 顔を上げると怖い顔をした宗介と美風が自分を睨んでいた。

 恋はその場でべそを描き始めた。


「お前はいつ帰ってきたと思ってるんだよ!」


 宗介が声を荒げた。


「3日居なかった。一体何をしてるつもりだったの?」


 美風が冷たく聞いた。


「散々心配させて。信じらんない。探すこっちがどういう気持ちでいたと思ってるんだよ。ほんといい度胸してる。よく僕の前にのこのこ顔を出せたね。」

「新田さん馬鹿なんじゃないの。道に迷って帰れなくなるなんて。何も考えてないんだ。僕の信用を全部失ったね。」

「何かあったらどうするつもりだったんだよ。本当に家にたどり着けなかったら?。その間に何か起きたら?。どうしようと思ってたんだよ。馬鹿狐!。」

「心配でどうにかなりそうだった。だって何の連絡もくれないし。ケータイ持ってるのにそんなのおかしい。一生言ってやる。何で一言言わないんだよ。」


 恋がぽろぽろ涙をこぼしていると、宗介が宣言した。


「今日は僕んち。お前は帰って説教。」

「二度とするなよ。ああもう本当無鉄砲。無計画。」


 美風が言った。


 2人は恋を挟んで自転車を押しながら、駅からの道を歩き始めた。
 
 ぶつぶつ小言を言っている宗介と言葉少なな美風と歩きながら、恋はずっとべそを描いていた。



 美風と別れて、並んだ宗介と恋の家の前で、恋が自分の家の門扉を開けようとすると、宗介が腕を掴んだので、恋は思わずげ、と口に出した。


「お前はこっちね。」


 宗介は恋の腕を掴んだまま家の扉を開けると、玄関へ入った。


 
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