元婚約者様、その子はあなたの娘ではありません!
 そんな彼の姿が完全に見えなくなってから、私はオルガに食って掛かった。

「どういうつもりなのよ! おばあちゃん!」

 そんな私に、オルガはニヤリと笑った。
 姿はなにも変わっていないのに、さっきまでとは打って変わってあどけなさなど欠片もない笑顔だ。

 オルガというのは彼女たくさんある名前の一つで、二人だけの時は私はおばあちゃんと呼んでいる。

「あれが前におまえが言っていた男なのじゃろう?
 もうすぐ面白いことが起こると占いにでておったが、これは想像以上じゃな!」

「ちっとも面白くなんかないわよ!」

「わははは、儂は面白いぞ。わははははは」

「そうでしょうね!
 娘のフリまでして、さぞかし面白いでしょうね!」

「まぁまぁ、そう怒るでない。
 これはおまえのためでもあるのじゃぞ。
 おまえもここに住み始めて、もう五年じゃ。
 薬師としての腕もしっかり磨いたことだし、そろそろ先のことを考えてもいい頃合いじゃろう」

「ちゃんと考えてるわ。
 私はこれからもずっとここで薬師を続けるつもりよ」

「そんなことを言えるのは、おまえがまだ若いからじゃ。
 若い時期なんて、あっという間に過ぎ去って後の祭りになるんじゃ。
 皺だらけの婆さんになってから後悔しても遅いんじゃぞ」

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