元婚約者様、その子はあなたの娘ではありません!
「……それでも、ダメ。
 五日後に戻ってきて」

「なんでダメなんだよ」

「私にも、いろいろと事情があるのよ」

「事情って?」

「それを説明する気はないわ。
 とにかく、五日後よ!」

「わかったよ……」

 アロイスは渋々頷いた。

「俺はこれから王都に戻る。
 きみとオルガを受け入れる準備を整えて、五日後またここに来ることにする」

 ここから王都までは普通なら馬車で十日はかかるくらいの距離なのだが、転移の魔法陣があればそんなことは関係ない。
 とても便利ではあるが、所持するには特別な許可が必要なはずなのに、なぜ彼がそんなものを持っているのだろう。
 
「パパ、帰っちゃうの?」

「ああ。五日後に迎えに来るよ。
 お菓子もおもちゃも、たくさん用意しておくからな。
 だから、いい子にして待っていてくれるか?」

「うん! ママと待ってる!」

 可愛い笑顔で頷くオルガに、アロイスは碧の瞳を細めた。

 完全に誤解しているようだが、そうなるように仕向けたのはオルガなのだから私のせいではない。 

 もう放っておこう。

「マリー、きみはなにか欲しいものはないか?」

「なにもないわ」

「そうか……」

 アロイスはなぜか少し悲しそうな顔をしたが、欲しいものなんてなにもないのだからしかたがないではないか。
 婚約していた時には誕生日の贈り物すらくれなかったくせに、今さらなにをという気持ちしかない。
  
 彼はものすごく名残惜しそうな顔をしながら、魔法陣を使って王都へと帰っていった。

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