元婚約者様、その子はあなたの娘ではありません!
「ママ、あたしおーとに行ってみたい!」

 私がそう思っていることをわかっているはずなのに、オルガは元気な声を上げた。

「おーとには、おいしいお菓子がたくさんあるんでしょ?
 食べてみたいわ!」

 無邪気にそんなことを言う娘(誤解)に、アロイスはとろけるような甘い笑みを浮かべた。

「そうだよ。
 王都には、美味しいお菓子がたくさんある。
 パパがたくさん食べさせてあげよう」

「ほんと⁉」

「もちろんだとも。
 お菓子の他にも、可愛いドレスや、ぬいぐるみやおもちゃも、たくさん買ってあげるからね。
 今まで何もできなかった分、少しでも償いをさせてほしいんだ」

「お菓子! おもちゃ! やった~!」

 私からすればなんともあざとい演技だが、思い込みで目が曇っているアロイスにそれを見抜くのは不可能だろう。

「マリー、頼むよ。
 おじい様もきみを心配しているんだ」

 アロイスのおじい様、つまり前プラスロー伯爵は私のこともよく可愛がってくれていた。
 私も、亡くなった実の祖父と同じくらいに懐いていた。

「……おじい様は、お元気なの?」 

「あまり元気ではない。
 もう年だから、あちこち弱ってきている。
 もしこの機会を逃したら、もう二度と会えないかもしれないぞ?」

「う……」

 私の頭を大きな手で撫でてくれたおじい様。
 最後に会った時はとても元気そうだったが、年齢的にいつ亡くなってもおかしくないだろう。

 私は誰にもなにも告げずに王都を去ったので、お別れも言えなかった。
 このまま会えなくなってしまうのは、私としても悲しいのは確かだ。

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