30歳、年下わんこに愛されています
 小さなテーブルの上で、グラスがふたつ並ぶ。

 光の部屋は驚くほど整っていて、ふんわりと柔軟剤の香りがした。
 その清潔さに、どこか落ち着かない。

 「……おじゃまします」

 ソファの端に腰を下ろすと、心臓の音がやけにうるさく感じた。
 男の子の部屋に入るなんて、軽率だったかもしれない――そんな考えが一瞬頭をよぎる。

 そのとき、不意に光が手を伸ばした。
 思わず体がびくりと反応する。

 けれど、彼の手が取ったのは、テーブルの上に置かれたトランプの箱だった。

 「……やりましょう、トランプ。俺、強いんですよ」

 思わず拍子抜けして、「なにそれ」と笑ってしまう。
 その笑いに、さっきまで張りつめていた空気が少しだけ緩んだ。

 「じゃあ、負けた方が質問ひとつ答える、とか」
 「え、それ罰ゲーム?」
 「もちろん」

 光の笑顔がいたずらっぽくて、思わず口元を押さえる。

 ババ抜き、スピード、七並べ。
 カードがテーブルの上を行き交うたびに、笑い声が部屋に弾けた。
 勝って悔しがる光を見て、こんな顔するんだ――と、沙良は密かに胸の奥がくすぐったくなる。

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