30歳、年下わんこに愛されています
 気づけば、時計の針が日付の境界を指そうとしていた。
 ふと静かになった部屋に、グラスの中の氷が小さく音を立てる。

 「……あーあ」
 無意識に声が漏れた。

 「誕生日、終わっちゃうな」

 光が驚いたように顔を上げる。
 「え、今日?」

 「うん。今日、大好きだった人と別れたの。7年も想ってた人」
 笑おうとしたけれど、うまくできなかった。

 「気づいたら三十になってたよ。人生で一番悲しい日に、光くんに出会えて、少し救われた。ありがとう」

 静寂の中で、光はしばらく何も言わなかった。
 ただ、グラスを置き、私の方をまっすぐ見た。

 「……じゃあ、俺にも、言わせてください」

 少し息を整えるようにして、光はゆっくり続けた。

 「その7年間があったから、今の遠藤さんがいる。だから――その全部を否定しないでください。今日まで頑張ってきた自分を、ちゃんと褒めてあげて」

 その言葉が、静かに胸の奥に落ちた。

 涙がまたこぼれる。
 光はそっと私の頬に触れ、親指で涙を拭った。

 「生まれてきてくれて、ありがとう」

< 15 / 17 >

この作品をシェア

pagetop