30歳、年下わんこに愛されています
 そのうちに、食事に誘われるようになった。
 最初は、仕事帰りにふらっと寄るだけの、軽い食事だった。

 ちょうどその頃、長く付き合っていた彼氏と別れたばかりで、私の心は少し疲れていた。

 何をしても虚しくて、笑っているつもりでも、自分の声がどこか遠くに聞こえた。

 そんな時だった。
 「元気ないな。肉でも食べに行くか」
 朔が、何気ない調子で言ってくれた。

 連れて行かれたのは、庶民的な焼肉屋さん。

 煙が立ちこめる店内で、彼は手際よく肉を焼いて、私の皿にぽん、と置いた。

 「ほら、これ。美味しいから」
 そう言いながらお肉を頬張って、うまい!と笑う顔に、胸の奥がじんわりと温かくなった。

 食べながら、他愛もない話をした。
 仕事の愚痴、将来のこと、学生生活の話。

 彼は時々、私の言葉を最後まで聞いてから、
 静かに笑ったり、真剣に頷いたりした。

 帰り際、車の中で彼が言った。

 「無理して笑わなくていいよ。泣きたいときは泣けばいい。美味しいものを食べればまた笑えるから、笑いたくなったらまた俺と食事に行こう」

 その優しさに、気がつけば涙が溢れていて、そっと頭を撫でる手を、愛おしいと思ってしまっていた。
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