30歳、年下わんこに愛されています
 たまに食事に行くようになり、それがいつの間にか、当たり前の時間になっていった。

 車の中で流れるどこか懐かしい曲。
 助手席の私を見て微笑む彼の横顔。

 ――気づいた時にはもう、恋に落ちていた。

 どんなに忙しくても、「一緒にいると落ち着く」と言ってくれる。
 週末に会うたび、優しく抱きしめてくれる。
 それだけで、世界の中心にいるような気がしていた。

 ただ、ある夜。
 ふとした拍子に、彼のスマホの画面が目に入った。
 そこに映っていた“妻”という文字に、呼吸が止まった。

 どうして気づかなかったんだろう。
 指輪をしていなかったから?

 都合よく見ないふりをしていたのかもしれない。

 その関係がいけないものだとわかった時には、もう始まっていて、戻る道なんて、どこにも見えなかった。

 彼のいない世界が想像できなくなっていた。

 でも、彼は言った。
 「もう、終わってる関係なんだ。離婚の話もしてる」
 「いずれ、沙良と一緒になりたいと思ってる」
 「俺には沙良しかいないんだ」

 その言葉を、私は信じた。
 信じたかった。

 あれから七年。
 三十歳になった今も、私はあの頃と同じように、 彼からの言葉ひとつで一喜一憂している。
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