社内では秘密ですけど、旦那様の溺愛が止まりません!
終電間際。
みんなが駅へ散っていく。人の流れに紛れて外に出ようとしたとき、後ろから名前を呼ばれた。

「渡辺さん、ちょっといい?」

振り返ると、神谷くんがいた。

「ごめん、急に。少しだけ話したくて」

「あ、うん。いいけど」

彼に連れられ、みんなと少し距離をとり駅の端の方に行く。駅の明かりの下で、神谷くんは少し照れたように笑った。

「渡辺さんって、誰か好きな人いる?」

「えっ……!」

まさかそんな話だとは思いもしておらず、驚きの声をあげてしまう。

「前から、渡辺さんのことが気になっててさ。だから浅賀のことどうなんだろうって思ってた」

心臓がドクンと跳ねる。どうして今亮くんの話になるの?

「え、な、なんで?」

「なんか、見てるとわかるんだよ。二人とも、どっかでつながってる感じがする」

まさかの言葉に動揺する。どうしよう。言葉が出ない。
嘘をつくのも苦しい。
でも本当のことを言うわけにもいかない。

「……ごめん。私、好きな人がいるの。でも、たぶん神谷くんが思ってる人じゃない」

「そっか」

神谷くんは少し笑ってそう言う。

「……その人、会社の中にいるの?」

「……」

答えられなかった。でも、視線の先には、遠くから見つめている亮くんの姿があった。

「付き合ってるの?」

さらに質問を重ねてくる神谷くんになんて言ったらいいのか考えあぐねていると、

「今は俺の気持ちを知ってくれるだけでいい。これから先、渡辺さんが俺のことを意識するようになってくれたら今日言った甲斐があったなと思うよ」

「でも私には好きな人がいるんだよ」

「でも好きなのは俺も同じだろ。付き合っていないならまだチャンスはあるってことだし、俺は俺で攻めるから」

「……ごめん」

「渡辺さんならそう言うと思った。でも俺は諦めの悪い男だから」

そう言うと彼は改札に向かって歩き出した。私は深く息を吐くとその後ろをそっと付いていった。
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