社内では秘密ですけど、旦那様の溺愛が止まりません！

夜、家に帰ると珍しく亮くんはすでに帰宅していた。ソファに腰掛け、スマホを見つめているのを見て、少しだけ息を吐き出した。

「……炎上、してるな」

「やっぱり見たんだ」

「見るなって言われても、タイムラインに出てくるからな」

画面には、例のツイートがさらに拡散され、まとめサイトにまで転載されていた。

『社長の隠し子？　若手社員との関係は？』
『イナギHDの御曹司は社内にいる!?』

スマホを見て亮くんは小さく息を吐いた。

「お前の部署、きつくない？」

「平気。課長がフォローしてくれてる」

「そうか」

少し沈黙の時間が流れる。そして彼が、スマホを伏せて言った。

「でも、ここまで広がると“浅賀”として隠れ続けるのも、そろそろ限界かもな」

「どういうこと？」

「俺、父さんに話そうと思う。“そろそろ戻る準備をしたい”って」

戻るって、つまり、“稲木”に戻るってこと？その言葉に私はどこか怖さを感じる。

「でも、まだ社長の息子として見られることも小春との関係が公になることも正直不安だ」

小春はそっと亮の手に触れる。

「うん。お父さんとの約束はまだ先だったもん。一緒に考えよう」

「小春」

「ねぇ、亮くん。どんな立場でも、私は亮くんを見てるから」

彼の手が、ぎゅっと握り返してきた。そしてその手を引かれると彼の胸に飛び込んだ。ぎゅっと抱きしめられたその手はいつもより熱く感じた。

「ありがとう、小春」

私も彼の背に手を回すとぎゅっと抱きつく。不安な気持ちが彼といることでなぜか和らぐのを感じる。

夜になり、布団に入っても通知音は鳴り止まない、
亮くんの顔写真が出ている今、彼の人物特定なんてあっという間だろう。
亮くんが私を背中からそっと抱きしめてくれる。

“世界が、私たちを探し始めている——”

そんな恐怖心から心が冷たくなっていたのに彼の体温が私を温める。彼が隣にいてくれたら怖くない。