社内では秘密ですけど、旦那様の溺愛が止まりません!
朝からずっと、心がざわざわしていた。ニュースも、SNSも、社内の空気も、みんなが何かを探しているようでどこか落ち着かない。たったあれだけの記事がこんな大事になるなんて思いもしていなかった。

「大丈夫、大丈夫……」

一日中、何度そう自分に言い聞かせたか分からない。ようやく定時になり、パソコンを閉じると会社をでた。
外に出ると、ぽつり、と雨が落ち始めていた。改札を出ると会社をでた時よりも雨足が強くなっていた。傘を持っておらず、項垂れるように空を見上げる。
こんな日って、どうしていつも雨なんだろう。
(今日はもう、泣きそう……)
そう思った瞬間、私を呼ぶ声が聞こえた。

「小春」

振り返ると、駅前の街灯の下に、亮が立っていた。スーツの方が少しだけ濡れているが、片手にはコンビニのビニール傘。

「どうしてここにいるの?」

「お前の顔、浮かんだから」

「……え?」

「たぶん、泣きそうな顔してると思った」

その言葉に私は泣かされそうになった。亮くんが私のことを気にしてくれていることに目頭が熱くなってしまう。彼の腕にそっと手をかけるといつもより密着しながら家に帰った。
家に帰ると、亮くんは冷蔵庫から材料を出し始めている。

「今日は俺が作るよ」

「えっ、亮くんが料理なんて」

彼が料理してくれるのは珍しい。もちろんやればできる人だけれど、それ以上に彼は忙しい。家に帰ってきても開発の仕事とは別で、時期後継者になるための勉強や情報収集を欠かさずにしているので私は少しでも彼の負担が軽くなるために自分から率先して家事をしていた。

「こんな日くらい、俺にやらせて」

炒め物の香ばしい匂いがあっという間にキッチンからしてくる。

「美味しそう」

「味は保証できないぞ」

「それでも、いい匂い」

二人で並んで食べる夜ごはん。
何でもないのに、心がじんわり温かか口なった。
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