社内では秘密ですけど、旦那様の溺愛が止まりません！

あれから更に1週間は経つが、噂は一向におさまる気配がなかった。私たちは静観しているが、どこにいても噂が耳に入ってくるくらい誰かしらこの話をしていた。

「ねぇ、浅賀くんが社長の息子説って本当なのかな」

「デマでしょ。でも似てるって話なかなか消えないよね」

笑いながら話す彼女たちの話につい聞き耳を立ててしまう。

「でもさ、本当だったらロマンあるよね。こんなところに御曹司がいたなんてさ」

私は、ロマンどころじゃないと叫びたいが堪え、心の中でため息をついた。亮くんも幾度となく周囲から探られるようだが話を流していた。みんなを騙しているようで辛いのだろう。噂をするのは相変わらずだが、本人に確かめに行く人はそこまではいないようだ。
人の噂は75日というが、それまでにはまだまだ日にちがある。
今日何度目かのため息がまたでてしまった。

「渡辺さんのため息、最近多いね」

ふと神谷くんが後ろから話かけてきて驚いた。

「ひゃっ……、ちょっと、本当にびっくりした」

「ごめん、ごめん。そんなに驚かなくてもいいんじゃない。同僚にさ」

わざと少し拗ねたような言い方に、彼の人懐っこさがまたでていた。

「だって……」

「渡辺さん、何か心配事あるの？　最近なんだか落ち着かないっていうか、ため息も多いし何かあった？　俺でよかったら相談に乗るよ」

心の中でため息をついているつもりが、無意識に外にでてしまっていることもあるのだろう。なんだかちょっと恥ずかしい。

「心配かけてごめんね。大丈夫だから」

そういうといつもの笑顔が少し消え、真面目な表情に変わる。

「俺はいつでも渡辺さんのために何かしたいと思っているから。それを忘れないで」

見つめられる視線に私の胸はドキッとした。あれから神谷くんは普通に接してくれていたけど、今の言葉に同僚としての言葉を超えたものを感じた。
私が何も言えずにいると、いつも表情に戻り、彼は自分の席へと戻っていってしまった。