社内では秘密ですけど、旦那様の溺愛が止まりません!
帰宅するとふわりとスーツの匂いがしていた。
リビングに入ると亮くんはネクタイを緩め、ソファに寝転んでいた。

「おかえり」

「うん、ただいま。今日、亮くん早かったんだね」

「あぁ、なんだか早く帰りたくて」

それだけ言うと彼は少し笑った。その表情はいつもよりも更に疲れて見えた。

「無理してない?」

「……」

「平気なふりしているみたいに見える」

「そうだよな。小春にはわかっちゃうよな」

少し苦笑いを浮かべる彼をみてこちらがなんだか切なくなる。

「どうしてみんなこんなに噂話ばかりするんだろうな。俺が誰か、なんていいじゃないか。今まで3年間、誰も気にしたこともなかったんだから放っておいてくれたらいいのに」

真面目で地味な“浅賀くん“を気にする人なんていなかった。存在感を消すようにひたすら真面目に彼は働いてきただけだった。いくら写真が似ていたとしてもここまでになるとは想定外だった。毎日耳元に届いてくる話し声に彼は辟易しているのだろう。

「そうだね」

そばにいるから、としか私は彼にかけてあげられる言葉が見つからない。きっと彼も私に何かの言葉を求めている訳ではないのだろう。

「小春のそばにいると息ができる……」

私は小さく頷いた。私が一歩前に足を出すと、彼もソファから手を伸ばす。抱き寄せられ、抱きしめ返すだけで私も彼も何かかけてしまったものが満たされるようだった。
< 33 / 50 >

この作品をシェア

pagetop