社内では秘密ですけど、旦那様の溺愛が止まりません！
「この3年間で本当に色々な人を見ました。信頼できる仲間もいれば、嫉妬や噂に流される人もいた。努力が報われる日もあれば、理不尽に叱責される日もありました」

俺の話をじっと目を見て聞いている父に更に言葉を続ける。

「誰もが正しい訳ではないし、時には誤解や悪意に押しつぶされそうになることもありました。でも、それでも働き続ける人たちがいて、支え合っている現場を見て……初めて会社が人でできていることを実感しました」

父は黙ったまま腕を組んでいた。

「ここで1社員として過ごしたからこそ3年前に言われた言葉の重みが少しわかった気がします。それに、もうひとつ学びました」

「なんだ」

「支えてくれる人の存在の大きさです。人を信じる強さ、優しさを彼女から教えられました」

「小春さんのことか？」

俺はその言葉に頷いた。

「この3年間で自分が何を大切にしたいのか、どう生きるべきなのかを見つけたんです。それが“浅賀亮“として得た成果だと思います」

俺が話をし終わるのを見届けると、父はゆっくりと腕を解く。そして顔にわずかに柔らかさが戻ったように思った。

「人を知り、己を知る。それが亮の修行の答えだな」

父の言葉が重く胸の奥に刻まれる。

「亮、この先どんな噂があろうとも、人を信じることをやめるな」

「……はい」

その瞬間、いままでずっと凝り固まってしまっていた気持ちが胸の奥でスッと解けるような気がした。
人の中で生きるとは光だけじゃない。色々な感情の渦巻く影の部分も受け止めること。それをも受け止める強さを持つことだと背中を押された気がした。
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