社内では秘密ですけど、旦那様の溺愛が止まりません！
突如としていつもの静かなフロアにアラート音が鳴り響き出した。
驚いて同じフロアのみんなが開発部の方を見つめると、若手の社員が呆然と声を上げる。

「データが消えました！　昨日のテスト分、全部」

一瞬で空気が張り詰め、全員キーボードを打つ手が止まった。
覗きこむと画面は真っ暗なエラーログが出ている。開発部ではなんとか使用とキーボードを打ち込む音や焦る声が上がり騒然としている。

「まずい……発表用のでも、今日の夕方には必要だぞ！」

「バックアップは？　誰か取ってるだろ？」

「……確認します！」

誰もが慌てふためく中、亮くんが立ち上がるのが見えた。

「みんな、一旦手を止めて」

その声は驚くほど落ち着いていた。いつもの地味な浅賀くんの声なのに、なぜか全員がその一言で呼吸を取り戻した。

「まずは原因を切り分けよう。焦って作業すると余計にログが壊れる。解析班はエラーログを各2人、バッグアップ班は昨日のミラーを探して。俺は復旧用のスクリプト書くから」

亮くんは焦ることなく全員に落ち着くよう声をかけ、その上で最適解を判断したようだ。みんなで焦り動いても深みにハマるだけだろう。

「で、でも浅賀さん、時間が……」

焦る声に亮くんは首を振る。

「大丈夫。焦らない方が早い」

その言葉に不思議と説得力があった。彼の手がキーボードを叩くリズムは一定で、まるで“いつも通り“の空気を作り出していた。
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