セレナーデ
楽器を弾きたくても、触れることすら出来ない人間が沢山いることを一望は想像したことがあるのだろうか。
弓を構える。そして奏でる。
他人なんて関係ない。
その音で世界が震える。
「お客様がわたしだけなんて、勿体ない」
「朔子も弾いてよ。一緒に」
プロのチェリストと何を弾けと。
伸び伸びと演奏する一望を見て、粟野との会話を思い出す。
「弾かないの?」
「……目が眩むなあと思う時があるの」
「うん?」
「他人の才能を目の当たりにして、眩しくて妬ましい。自分のやってることが馬鹿らしく思えてくる」