敏腕エリート部長は3年越しの恋慕を滾らせる
 その日の夜。
 千尋から『今夜は外で食べよう』とメールで誘われた美絃は、指定されたお店へと向かった。

「ここで、……合ってる?」

 看板もないモダンな建物の前に辿り着いた。
 緊張しながらドアをくぐると、指定されたお店で合っているようだ。
『いらっしゃいませ』と出迎えてくれた女将さんが、奥の個室へと案内してくれた。

 開かれた襖の先にいたのは彼と、昼間社食で見た、あの女性だ。

「遅くなり申し訳ありません」
「ここ、分かりづらくなかった?」
「……あ、いえ」

 挨拶もなく、いきなり話しかけられて、美絃は戸惑ってしまった。

「初めまして、工藤 仁香です。千尋とは同じ年で昔からの知り合いなの。今日はご一緒させて貰うんだけど、いいかしら?」
「あっ、はい。……高岡 美絃です」
「美絃、とりあえず座って」
「……はい」

 掘りごたつ状の席に腰を下ろし、気づかれないように息を吐く。
 仁香さんは微笑む姿も絵になっていて、思わず見惚れてしまう。
 美絃は場違いな場所に来てしまったと感じた。
 所在なさげに視線を泳がせていると、程なくして料理が運ばれて来た。



「千尋はね、凄く泣き虫な男の子だったのよ」
「おい、それは言わない約束だろ」
「えー、もう時効だからいいじゃない」

 旬の食材を使った会席料理。
 お料理に合うお酒も頂いているのに、ちっとも味がしない。
 美絃には分からない昔話を楽しそうにする二人。
 美絃は、時折相槌を打つみたいに『そうなんですね~』と合わせるのが精一杯。
 正直居心地が悪すぎて、胃もたれしそうなほどだ。

 お料理も終盤に差し掛かり、デザートが運ばれて来た。

「あっ、キウイ貰うね~」
「おいっ、……ホントに行儀の悪いやつだな」
「食べれないのを食べてあげるんだから、感謝して欲しいくらいよ」

(えっ、……千尋さん、キウイフルーツが食べれないの? 初めて知った……)

 同棲してまだ間もない美絃より、幼馴染の彼女の方が何でも知っているのは当然かもしれない。
 最近漸く会話も弾むようになって来たから、何でも知っていると思い上がっていることに気付かされた。

「すみません。ちょっと急用を思い出したので、これで失礼します」
「え、おい、美絃っ!!」

 美絃は呼び止める千尋を無視して、お店を飛び出した。
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