敏腕エリート部長は3年越しの恋慕を滾らせる
「もう、最悪……」

 久しぶりに彼と外食するとあって、張り切ってメイクを直して来た美絃。
 ひっつめ気味に束ねたヘアスタイルも、わざわざ片編み込みにしたのに、何一つ気付いて貰えたなかった。

 一人で浮かれていた美絃は、婚約者を紹介されるという現実に、完全にノックアウト状態。
 専務との会話が脳裏を過り、今日はその報告をしようと私を誘ったに違いない。

(あのマンションから出なければ……)
 
 彼女が泊まるかもしれないあのマンションには帰れないし、実家は遠すぎて行ける距離じゃない。
(どこか、泊まれそうなビジネスホテルを探さないと……)
 途方にくれた美絃は乱れた心を落ち着かせようと、人通りの少ない路地裏へと足を踏み入れた。


 もう気付いてしまった。
 彼のことが『好き』なんだと。

 憧れだと思っていた感情が、いつしか恋心に変わっていたようで。
 彼と楽しそうに話す仁香さんに嫉妬し、小さな変化に気付いてくれない彼にショックを受けた。
 もう誤魔化しがきかないくらい、彼のことが好きらしい。
 気付けば、頬に涙が伝っていた。

 彼に御礼を言われたら嬉しいし、褒められたら『また頑張ろう』という気持ちになる。
 名前を呼ばれる度に胸が高鳴って、いつしか彼の素を知っているのは自分だけだと勘違いしていた。

「ばかみたい……」

 浮かれてバグった脳をリセットしようと、あてもなく歩き続けた。

**

「なんでここに……」

 気付くと、彼のマンションの前に辿り着いていた。
 溜息まじりに腕時計を確認すると、お店を出てから一時間以上が経っている。

(結構歩いたな……)

 美絃はその場から離れようと、踵を返した、その時。
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