アーサ王子の君影草 下巻 ~約束の箱庭にて、再び~
ルゥアンダ帝国は陽が昇らない極夜の国だ。
一日の終わり、胸の奥が静かになる。
眠る時間になれば宛てがわれた部屋で体を休める事が出来た。そこで漸く人としての温度が戻る。
眠る為だけに用意された真っ暗な部屋。
ただ〝道具〟をしまうみたいに雑に放り込まれるその部屋だけが皮肉にも深く呼吸の出来る場所だった。
照明すら無い寝台の上。暗闇に怯えながら手を伸ばせば、小さな手が冷えた指先を強く握り返す感触。同じ高さの視線。
自分と同じ様に怯えながらも必死に笑おうとする顔が、窓から差し込む星明かりで薄く確認できた。
「──玻璃、大丈夫。私がいるでしょ」
闇の中で唯一あたたかい光として浮かぶのが万理。どれだけ記憶が霞んでも彼女の名前だけは、はっきりと浮かんだ。名を呼び、呼ばれ、互いを確かめ合えた唯一の存在。
だから離せない。失えば、自分が自分でなくなる。
ふっと、現実の気配が戻る。
寝台の敷布に触れた指先が、僅かに震えている。ハリはそれを見ないふりをして静かに息を整えた。
ここはルゥアンダ帝国では無い。窓から痛い程に射し込む強い西陽がそれを物語っている。
───思い出した訳ではない。ただ、押し出されて滲んだだけだ。そう言い聞かせる様に、再び心の奥へと押し戻す。この瞬間、ハリの中で再確認される。
やはり、守るのはこの箱庭なんかじゃあない。愚かな父でも、過去でもない。
万理だけなのだと。
一日の終わり、胸の奥が静かになる。
眠る時間になれば宛てがわれた部屋で体を休める事が出来た。そこで漸く人としての温度が戻る。
眠る為だけに用意された真っ暗な部屋。
ただ〝道具〟をしまうみたいに雑に放り込まれるその部屋だけが皮肉にも深く呼吸の出来る場所だった。
照明すら無い寝台の上。暗闇に怯えながら手を伸ばせば、小さな手が冷えた指先を強く握り返す感触。同じ高さの視線。
自分と同じ様に怯えながらも必死に笑おうとする顔が、窓から差し込む星明かりで薄く確認できた。
「──玻璃、大丈夫。私がいるでしょ」
闇の中で唯一あたたかい光として浮かぶのが万理。どれだけ記憶が霞んでも彼女の名前だけは、はっきりと浮かんだ。名を呼び、呼ばれ、互いを確かめ合えた唯一の存在。
だから離せない。失えば、自分が自分でなくなる。
ふっと、現実の気配が戻る。
寝台の敷布に触れた指先が、僅かに震えている。ハリはそれを見ないふりをして静かに息を整えた。
ここはルゥアンダ帝国では無い。窓から痛い程に射し込む強い西陽がそれを物語っている。
───思い出した訳ではない。ただ、押し出されて滲んだだけだ。そう言い聞かせる様に、再び心の奥へと押し戻す。この瞬間、ハリの中で再確認される。
やはり、守るのはこの箱庭なんかじゃあない。愚かな父でも、過去でもない。
万理だけなのだと。