野いちご源氏物語 四三 紅梅(こうばい)
「今夜は宿直(とのい)なのだろう。このまま私の部屋で休めばよい」
匂宮(におうのみや)様がそうおっしゃるから、若君(わかぎみ)東宮(とうぐう)様のお部屋にご挨拶(あいさつ)に上がることもできない。
すぐそばに横になられた(みや)様からは、紅梅《こうばい》も恥ずかしがりそうなほどのよい香りがする。
若君はうれしくて甘えたい気持ちになる。

「おまえの(ちち)大臣(だいじん)は長女を東宮(とうぐう)様に入内(じゅだい)させたが、(みや)御方(おんかた)の方を入内させようとは思わなかったのだろうか」
横になって優しくお尋ねになる。
「よく存じませんが、宮の御方の魅力(みりょく)が分かる方に差し上げたいと父は考えているようです」
父大臣の考えをはっきりとは申し上げない。

実は匂宮様は、紅梅大臣様のお考えを人づてにお聞きになっている。
でも、
<次女を私と結婚させたいようだが、私は宮の御方が気になる>
と、大臣様のご希望どおりのご結婚には()()でいらっしゃらない。
お返事を書くのもお気が進まない。
翌朝早くに若君が退出しようとするので、仕方なく、
「花の香りにふらふらとつられるような浮気者なら、ありがたいお手紙だとよろこんでお訪ねするだろうけれど」
とお書きになった。
< 12 / 18 >

この作品をシェア

pagetop