この恋を実らせるために
今までしがらみのように感じていたものがなくなり、ちょうど仕事をもっと頑張ってみたいと考えていた私にとって、橘さんの誘いは渡りに船といったものだった。
それからの橘さんの動きは本当に早かった。
仕事のできる男はどんなことにでもその力を発揮するらしい。私はその翌日には部長にプロジェクトチームへの参加を指示され、明後日の会議から正式にメンバーとして仕事を始めることになった。
私にとってはプロジェクトへの参加は初めてのこと。
なんだか緊張してきた、なんてソワソワしてしていると橘さんの声が響いた。
「林、堀田、行くぞ」
橘さんの声が課内に響く。
「あ、はい。今行きます」
私は会議室に行くためにパソコンからICカードを外そうとしていると続けて指示が飛ぶ。
「俺は先に部長のところに寄ってから行くから、そこの資料とタブレットを持ってきてくれ」
「わかりました」
返事を聞いた橘さんは会議室とは反対方向にある部長室に向かっていく。
席から立ち上がり橘さんのデスクに置いてある箱に私が手をかけようとすると、すでに準備を終えていた林さんが先に手を伸ばした。
「堀田さん、これは僕が持っていきますから大丈夫ですよ」
林さんはひょいっと一つダンボールを抱えて歩き出す。
林さんは最初からこのプロジェクトチームに参加している。私の2年後輩で、橘さんがよく気にかけている有望な人。
「ありがとう。じゃ、私はこのタブレットを持っていくね」
「助かります」
ニコッと人懐っこい笑顔で林さんからタブレットを預かると、二人で橘さんを追いかけた。
2つ上の階にある会議室に向かう途中で、林さんが橘さんはこのプロジェクトチームのサブリーダーだと教えてくれた。